猫の気持ち 其の四


 ここはどこであろう? 周りは真っ暗で何も見えない。


 誰かおらぬか声を掛けようとしてもなぜか声は出ない。ただ、真っ暗な中にジッとしているのみである。
 うーむ、これは一体全体どうしたことか、吾輩は猫になって……。猫になってそれから、それからどうしたんだっけ。
 一旦落ち着いて、もう一度よく思い出してみよう。猫になってから異世界転生して、転生先の主がイマイチだったので家出して――、たしか今日は新しい飼い主を見つけるための旅に出たのであったな。
 その後は、紆余曲折を経て、何とか新しい主を見つけ出し、一緒にお風呂に入っておるところであった。
 そして、これからがお楽しみと言うところで気を失ってしまって……。
 まてよ、ちょっとイヤな予感がして来たぞい。この状況には覚えがある、例の集会の帰りにもうっかり公園の噴水に落ちて気を失ってしまい、目が覚めたら異世界転生していたのであった。
 そこまで思い出すと、急に不安になって来る。今回もまた、瞼を開くと見覚えのない世界が広がっていて、ロクでもないご主人様が現われて理不尽な恫喝をしてくるのではなかろうか。となれば、一刻も早く目を覚まして舞子さんを探さねばならない。
 しかし、時すでに遅しであったならばどうしよう。せっかく出会えた新しいご主人様と一夜も過ごすことなく、また見知らぬ世界へと転送されてしまうのではないか。
 そんなことを考えていると、いよいよ目を覚ますのが億劫になってくる。このまましばらく瞼を閉じてのんびりと無の世界を彷徨い、また見知らぬ異世界へと旅立つのか、それとも一刻も早く目を覚まして、舞子さんの待つ元の世界へと戻るべきであろうか。
 ええい、こうなったら覚悟を決めるしかあるまい。
 決め手となるのは意志力である。舞子さんの女神のようにやさしい笑顔を思い描きながら、カッと両の瞼を開く――南無三。

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