猫の気持ち 其の二


 おや。せっかく良い感じになって来たところでまたもや中断でござるか。呼び鈴が鳴らなかったことから判断するに、どうやら舞子さんが帰ってきたのであろう。
「うんしょ、うんしょと」
 両手に買い物袋をぶら下げた舞子さんが、少々ぎこちない蟹歩きを披露しながら事務所へと入ってくる。
 パンパンに膨れ上がった買い物袋が見るからに重そうであるが、お猫様用の日用品を一気に買い込んできたようであるな。
「ふぅ、ただいま~ゴロちゃん。イタズラしないで良い子にしてたかな?」
「も、もちろんですにゃ」
 吾輩は身の潔白を証明するため、誠心誠意を込めて正直に答える。
「よしよし、今おトイレ作ってあげるから待っててね」
 大きな紙袋から猫用トイレと猫砂を取り出し、吾輩のためにせっせと設置作業に取り掛かる。しかし、ちょっと気になるのは、場所が人間用のトイレと同じである。え、ひょっとして自分でドアを開けて中に入れと言う事であろうか……。
 もちろん、吾輩であればやってやれないことは無いのであるが、まあ、細かいことは気にしないでおこう。
 トイレの設置が終わると、舞子さんは次から次へと猫用グッズを取り出し、事務所のあちこちへと置いて行く。さすがにキャットタワーは無いみたいであるが、この勢いであると近いうちに出現しそうな気がする。
 もちろん、吾輩にとっては有難いことで、今度の飼い主さんは当たりのようであるな。
 せっせと作業を進める舞子さんは実に楽しそうである。よほど猫を飼いたいと思っていたのか、ひょっとするとペットを飼うのは初めてなのかもしれない。
「爪磨ぎはアソコに置いてあるからね。ソファー引っ掻いちゃダメよゴロちゃん」
「あいよ、承知したでござる」
 お猫様グッズを一通り設置し終わると、舞子さんは再び自分の仕事机に付いて仕事に取り掛かる。菅野探偵も再び夢の中に旅立ってしまわれたようであるが、舞子さんは露とも気にする気配はない。おそらくはこれがこの探偵事務所の日常風景なのであろう。
 さてと、やっとこさ静かな午後のひと時が舞い戻ってきた。時おり、舞子さんがパソコンのキーボードを叩く音だけが時間の経過を知らせてくれる。
 今度こそ、ゆるりと瞑想の世界に旅立つことにいたそう……。

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