猫の気持ち 其の二


 そして味を占めた菅野所長は、次にスポンサーを捜し始めるに違いない。そのあとは、自称ネコ好きによる種々の虐待が待っているものと思われる。吾輩はスポンサーから横流しされたキャットフードを無理やり食べさせられ、変顔になった惨めな姿や、変てこグッズでいじり回される哀れな様子をSNSなどで晒されることであろう。
 うむ、これ以上のことは想像しただけで寒気がして来るのでこれくらいで止めておくことにしよう。
 兎に角である。この菅野探偵は吾輩のことを気に入っていないのは間違いないのである。
 したがって、今の状況で彼を起こしてしまうのは得策ではないだろう。
 出合ったばかりの彼に対して機嫌を損ねるような行動をすると、間違いなく舞子さんへと苦情が行ってしまう。下手をすると、舞子さんの居ないときにコッソリとペットショップへ連れて行かれ、質入されてしまうかもしれない。かと言って、この地鳴りのような騒音を放置してジッと耐え忍ぶと言う選択肢もゴメン蒙りたいところだ。
 さてさて、何か手はないものであろうか。しばらく菅野所長を観察しながら考えていたところで、一つ妙案を思いついた。さっそく実行してみることにしよう。
 吾輩は菅野所長が両足を投げ出している机へと着目する。後足にぐっと力を込めて一気に跳躍し、机の上へと飛び上がる。
 机の上は、ペン立てや卓上カレンダーなどの小物がちょっと置いてあるだけで、スッキリとしている。
 ほとんど物が置かれていない広々とした机には、今、汗臭そうな靴下をさらした二本の足が横たわっている。そして――あったぞ、予想していた通りである。
 投げ出された左足のすぐ先には、電話機が置いてある。
 うむ、実にこれまた絶妙な位置に置いてあるものだ。
 さっそく吾輩は、電話機の方へ向かって机の上を歩いて行く。うっかり菅野所長の足に触れて起こしてしまわないよう、細心の注意を払いながら電話機まで移動し、前足でチョイと受話器を突いて本体から外れた状態にする。
 あとはしばらくのあいだ放置しておけばよい。
 吾輩はすぐさま机から飛び降り、先ほどまでくつろいでいたソファーへと急いで戻ると、そのまま知らん顔をしながら瞑想しているフリをするのだ。

 プープープープープープープープー!

 計算どおりであるな。所定の時間が経過したあと、受話器外れの警告音が鳴り始めた。
 「ンゴオォ! あぁ?……」
 椅子の背もたれが軋む音がし、ガタゴトと物音が聞こえて来た。
 どうやら目を覚ましてくれたようであるな。吾輩はソファーで寝ているフリをしながら、薄目をあけてそれとなく菅野所長の様子を探る。
 菅野所長が足を机から下ろし、背もたれから起き上がると、警告音が鳴り響く電話機の受話器を叩き付けるようにガチャリと正常な位置へと置き直す。もちろん、犯人は吾輩なのであるが、彼はきっと寝ている最中に自分の足で蹴り外してしまったと思っていることであろう。
 これで吾輩は、合理的に騒音を止めることに成功し、菅野所長から無用な恨みも買わずに済むわけだ。
 さて、菅野所長。電話の警告音でせっかくの安眠を中断させられてしまったわけであるが、潔く仕事でも再開するのかと思いきや、ふたたび机の上で腕枕を組んで、今度はうつ伏せの姿勢になると、またもや昼寝を再開してしまった。
 おやおや、往生際の悪い男であるのう。まあ良いか、ひょっとしたらまたグーグーと鼾をかき始めるかもしれないが、あの姿勢であれば先ほどのような身の毛もよだつ騒音を撒き散らす可能性は低いものと思われる。
 さて、一段落したところで、吾輩も再び瞑想の世界へと旅立つことにいたそうか。
 瞳を閉じて、静かに、そしてゆっくりと無の世界へと沈み込んで行く……。

 カランコロ~ン

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