猫の気持ち 其の一


 次の目的地をあれこれ思案しながら商店街を黙々と歩いていると、ちょうど中央付近に差し掛かったところで吾輩を呼び止める声が聞こえて来た。
 振り向いてみると、向かい側のお店の前に二匹の猫がいる。うん、やっと仲間に出会うことができたな。お店の入口の上、二階部分の外壁にはタケダ商店と書かれた看板ロゴが貼り付けてある。正確に書くと、濁点の部分が剥がれ落ちてしまっているのでタケタ商店になってしまっているのであるが、剥がれ落ちた跡がクッキリと残ってしまっているのでタケダ商店であると言う事は容易に推察できるのだ。
 さて、せっかくお呼ばれしたのであるからさっそくお尋ねしてみることにしようかのう。二匹の方へ歩み寄り話しかけてみる。
「やあやあ、初めまして。満毒斎と申す者でござる」
「俺の名はロン
 お店の前で二匹並んでいる内の向かって右側、でっぷり肥え太った三毛猫が答える。
「あっしはヤスと呼んでくだせぇ、ダンナ」
 艶々した体毛を輝かせながらブチ模様の猫が答える。
「「俺達は二人で一つ!」」
「なかなか良いコンビのようでござるな」
 う~ん、気のせいであろうか……。見れば見るほどあの二人組に良く似ているような気がする。ひょっとして遠い親戚か何かかしらん。
「心配いりやせんぜダンナ。あっしらはこう見えても口が堅いと近所でも評判なんでござんすから、何かお困りのようでしたら何なりとご相談くだせぇ」
「そいつは大変有難い申し出でござるな。実はちょいと探しものをしているところでござるよ」
「へへっ、何なりとお申し付けくだせえ。ウチのお店は古今東西ありとあらゆるものを仕入れておりやすから、きっとお目当ての品も見つかりますぜ」
「ふむ、品揃えには自信があるお店なんだね」
 ちょいと顔を上げてお店の中を覗いて見ると、確かにいろんな商品が取り揃えてあるようだ。店先にまで張り出したゴンドラには、ストッキングやネクタイ、シャツなどが山盛りで詰め込んである。そして、店の中へと捜査線を写すと、今度は文房具や事務用品の棚が並んでいる。東側の壁は一面がプラモデルで占拠されており、西側の壁は駄菓子類が陳列されている。さらに奥の方には何故かは分からないのであるが、仏壇や蝋燭に書籍まで陳列されているようで、はてさて、一体このお店は何屋さんなのであろうか。
「ずいぶんと風変わりなお店のようでござるな」
「なに、細かいことは気にしちゃいけませんぜダンナ。うちは神のお告げに従って品物を仕入れているだけでヤンスから」
「なるほど、風変わりなのは店主も同じようで、店内には見当たらないようでござるが留守でござるかな?」
「な、なに。ちょいと雲隠れしてるだけでござんすよ。決して夜逃げしたワケじゃございやせん」
「へぇ、商人のクセにずいぶんと恥ずかしがり屋さんのようでござるな……」
 まぁいいや。いろいろと突っ込みたいことはあるが、今日はあまり時間がないので適当に相槌を打って受け流すことにいたそう。
「お客様の求める品を取り揃えるのが当店のモットーでヤンスから、もうじきおとずれる花火シーズンに合わせて花火セットも入荷済みでござんすよ。ホラ」
 ヤス君が顎先を向けて指し示す方を見ると、店先まで張り出しているゴンドラの下段側に花火セットがたっぷりと詰め込んであるのが確認できる。なかなか商売上手なようであるな。
 そしてさらに、花火セットの山の方へ身を乗り出し説明まで始めてしまったではないか。本気で吾輩に買わせようとしているのであろうか。
「こっちのゴージャスセットなんかどうでヤンスか、ロケット花火も付いてますぜ。こいつがありゃあ国会議事堂も一発で粉々でさぁ。へへっ」
 よほどロケット花火に思い入れでもあるのだろうか。目をキラキラと輝かせながら新しいオモチャを自慢するように吾輩へと勧めて来る。
「やはり犯人は君のようでござるな……」
「味を占めるとすぐにクーデターゴッコを始めるからねぇ、この連中は。困ったもんだよ、ハッハッハ」
「わ、若気の至りってヤツでヤンスよ。へ、へ」
「認めたくないものでござるな(笑)」
「しかし二度目は無いよ君。いいかげん肛室は解体したらどうなんだい」
「利権があるから掏り寄って来るんでござるよ」
「へ、へぇ。前のめりに善処させて頂きたい所存でございやすぅ」
 相変わらずヘラヘラしながら安っぽい受け答えをする輩であるな。
「全く懲りてないようでござるな」
「民間人を置き去りにして逃走したヒトデナシの孫だからね。ハッハッハ」
「ふむ、タケダ一族と言うのは随分と民度が低いようでござるな」
「お、オオ、オイラは天コロ一味とはもう関係がないでヤンスよ。不敬な言い掛かりはやめてほしいぞなもし、こんな胡散臭い妄想ポエムなんかさっさとやめちまえや! 無礼ダー、無礼ダー」
 気が触れてしまったのか。ヤス君、尻尾を逆立て激昂のインスピレーションでキレ芸を始めてしまった。こいつは剣呑だ。
「チッソみないな言い訳をするんじゃないよ君。みっともないじゃないかね、ハッハッハ」
「あ、阿阿、阿阿阿阿、あっしは潔白でヤンスからね。ぜんぶ安部天皇が悪いんやー」
森羅万象を司っているんだから当然の帰結だね。ハッハッハ」
「ついに天皇まで昇格されたでござるか」
「いや、厳密に言えば天皇も越えているんだがね」
「そいつは責任重大でござるな、さぞかしビッグな男なんでござろう」
「責任感はプランク定数以下みたいだよ。ハッハッハ」
「孔子より小っちゃいでござるか……」
「でも、これで地震予知もバッチリでヤンスよ。無駄な税金も浮くし、夜も安心してぐっすり眠れるでヤンス」
「うむ、そいつは有難い話でござるな。我々も犬死はまっぴらゴメンでござるよ」

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