猫の気持ち 其の九

吾輩は瞑想している、午後の陽射しがとても心地よい。

ここは名も無き主のアパートである。リビングの窓際でやわらかい空気に包まれながら今後の方針について、いろいろと思案しているところなのであ~る。
今日は土曜日なので学園はお休みである。したがって名も無き主も家の中に居るのであるが、今日は朝から自室へと閉じ篭って何やらオンラインゲームに熱中しておるようだ。もちろん、夢中になっているのは先日届いたばかりの新作ゲーム『希望の搭』であ~る。
首の皮一枚繋がったという感じで何とか留年をまぬがれて気が緩んでしまったのであろうか、期末テストのことなどはもうすっかり頭の中からは消え去ってしまっているようである。それからと言うもの、学園内においては、スマホで例の美女学生へ熱心にリツイートと言う作業を行いながら、SNSでいかに自分が彼女と得意な仲であるかを必死にアピールしてみたり、家に帰って来てはそそくさとパソコンを立ち上げて例の新作ゲームを徹夜同然でやり込む日々が続いている。
どうやら新作ゲームの進捗状況もSNSで報告するのが日課になっているようで、先日もゲーム内のカジノにどっぷりハマリ込んだあげく7000万ギルも摩ってしまい、憔悴しきった表情でベッドに寝転がっている姿を自撮りして動画投稿サイトにアップしておられた。
SNS上では、たちまち哀れみのコメントとカンパが押し寄せ、人気急上昇中のブログとしてランキング入りを果たしたようである。
吾輩はその一部始終を名も無き主のそばでずっと観察していたのであるが、仮病にしてはなかなかの名演技であった。将来は名俳優になるやもしれぬ。
そして今日も、朝起きると同時に吾輩をベッドから蹴落とし、「今日こそは第七階層まで登ってアズナちゃんと結婚するんだ」などと宣言をしてから、吾輩にお昼ご飯を与えるのも忘れてオンラインゲームに夢中になっている次第なのであ~る。
吾輩がお昼ご飯をがまんすることで名も無き主がアズナちゃんと結婚出来るのであれば、喜んで我慢してあげるのであるが、どうも事はそう単純ではなさそうである。と言うのも、先ほどのことなのであるが、いいかげんお昼ご飯を催促しようかと名も無き主の部屋へ入ろうとしたら、丁度トイレに行くためにリビングへと出てきた名も無き主とバッタリ鉢合わせしてしまった。そして吾輩と視線が交差するや否や、「チッ、黒田め。いよいよ本性を現して来やがったぜ」などと殺意のこもった謎の台詞を吐き捨てると、そのままプイッと行き過ぎてしまった。
どうやら只事ではない何かが起こってしまったようである。
何となく恐ろしい毛配を感じたので、吾輩はそのままベランダの方へ舞い戻り瞑想に耽ることにした。アズナちゃんとのお見合いが御破談にならないことを静かに祈ることにいたそう。
それにしてもお腹が空いたにゃあ。朝から何も食べていないのであるからなおさらである。このままでは夜のご飯も抜きになってしまうのではないであろうか、不安が脳裏に浮かぶと同時にふと思い出した。
今日は例のネコネコ団集会の日である。名も無き主におねだりしなくても御馳走にありつけるではないかぁ。そう考えると、みるみる体に元気が沸いてくるのを感じる、先程まで空腹感ばかりであったお腹のムシもピタリと鳴き止んだ。むしろ今では晩餐を思う存分楽しんでやろうと言う気概と共に水一滴すら口にはするまいと言う、信念にも似た固い決意が沸いてきた。
あぁ、干し柿でもあれば酒の肴にでもしてのんびりと夜が来るのを待っていられるのであるが、あいにくこの家にはそのような風流な食べ物は置いてない。したがって、このように瞑想にふけ込みながら静かに夜が訪れるのを待つしかないのであ~る。
お日様は刻一刻と西の方へと傾いてゆく。気が付いたらすっかりと秋の空模様になっており、部屋がオレンジ色の光に包まれ始めたかと思ったら、あれよあれよと言う間に深い藍色へと移り変わって行く。静かに無の境地に沈み込んでいると、時折となりの部屋から奇声が聞こえて来たりする。第七階層へと通じる門の番人、カジノ王黒田を倒すために悪戦苦闘中のようだ。
名も無き主が無地に第七階層までたどり着き、アズナちゃんとのお見合いが成功に終われば、ちょっとは機嫌が良くなってカリカリを恵んでもらえるかもしれない。
もしも御破談になってしまった場合は、このまま夕食もお預けとなってしまうであろう。そればかりか、きっと不機嫌になって吾輩に当り散らしてくる可能性が濃厚だ。となれば、もしばらく様子を見たうえでダメそうならちょいと早めに集会に出掛けることにいたそう。
またしばらく瞑想にふけ込む。窓の外の景色はすっかり真っ暗になって、お月様が昇り始めている。名も無き主の部屋からは何も物音が聞こえなくなった。はて、疲れて寝てしまったのかしらん。
ちょっと覗きに行って見ようかと思い立ったそのときであった。リビングの壁が鋭い打撃音と共にビリビリと振動を開始する、一呼吸おいてから棚の上の小物が床へと散らばる音と振動が床を通して肉球に伝わってきた。
あいやぁ、ついに破産してしまったか……。
十五夜のお月様に向かって、近所の飼い犬達が雄叫びを上げ始める。これは、何か嫌なことが起こりそうな予感がして来たぞい。


背筋がゾクゾクして悪寒が走る、このまま名も無き主の家に居るのは危険であると本能が訴えて来る。
よし、今日はちょっと早めではあるが一足先に家を出ることにしよう。
吾輩は意を決してベランダから外へと踊り出る。辺りはすっかり真っ暗である、月の明かりもあるし、猫の目にはどうと言う事はないのであるが、問題は目的地までの距離であるな。すでに知ってのとおり吾輩は先日異世界転生をしたおかげで二駅ほど離れたとなり町へとワープしてしまった。いくら猫といえども歩いていくにはちと遠すぎるでござるな。電車を使って最寄り駅まで移動することにしよう。
吾輩はそのまま園原駅へと向かった。もちろん、駅の正面改札は通らずに、踏み切りの所から発着ホームへと一直線に向かう。車掌さんに見つかってしまうと厄介なことになりそうなので、先頭車両の方へと移動しベンチの下に隠れながら電車が来るのを待つことにした。
時間がたつにつれて、しだいにホームの人影が増えてくる。少し早めに出たのは正解であったな、まだ乗客が比較的に多い時間帯なので、これなら雑踏に紛れてたやすく忍び込むことが出来そうだ。
十分ほど経ったころであろうか、踏切の警告音が聞こえてきた。思いのほか待たずにすんだにゃ。
吾輩は乗り降りする乗客たちに紛れて電車に乗り込んだ。そしてすぐさま、出来るだけ目立たないよう座席シートの下へと潜り込む。このまま十分ほど我慢しておれば目的地の最寄り駅までたどり着く事が出来るはずである。とりあえず最大の難関はクリアしたと言って良い、まずは一安心と思っていたのであるが、何やら背中がヒリヒリして来た。
どうやら座席下に設置してある暖房用のヒーターが稼動しておるようであるな。さすがにこれだけの至近距離で炙られるとかなり熱い、気のせいであろうか何となく焦げ臭い感じがする、こいつはちと不味いことになってしまったな。しかしながら、下手に電車内を動き回って親切な猫愛好家にでも捕まってしまうともっと不味い。あちこちたらい回しにされたあげく保健所送りにされてしまうかもしれない。ここは涙をのんで耐えるしかないであろう。あと少しの辛抱だ――。



灼熱地獄に耐えながら、なんとか丸焼けにならずに目的地である美里駅に着くことが出来た。吾輩の地元でもあるが、こちらは名も無き主が使っている園原駅よりも市の中心部に近いため、この時間帯でもまだまだ人通りが多く混雑している。
自分の住み慣れた街へと戻って来たためであろうか、いく分か緊張も和らいで来た。それと同時にまたお腹の虫がゴロゴロと鳴き始める。早く晩餐にあり付きたいところであるのだが、まだだいぶ時間が早い。さて、どうやって時間を潰そうか。
しばらく考え込んだところでまた一つ思い出した。
ふむ、時間はたっぷり余っていることであるし、いったん自宅へ戻ってみることにしようかのう。
駅から離れて自宅の方へと向かう、ここからなら五分とかからない距離だ。猫に変装して妄想ポエムを書く生活も悪くは無い、しばらくは戻ってこれない可能性が高くなってきたので、ここらで一つ細工を施しておくことにしよう。
てくてく歩きながら自宅アパートへと戻ってきたこところでまた一つ問題が発生する。吾輩のアパートはオートロック式であるため、鍵を持っていなければそのまま中へ入ることは出来ない。
自分の部屋へと戻るにはちと工夫が必要だ。今は猫の姿になっているのであるから、一階の通路部分へと回り込んで侵入するか、誰かアパートの住人が帰って来た時に一緒に中へ迷い込むかしなければならない。しかし、後者の方は気付かれてしまうと外へ追い払われてしまう可能性が高いので、少々手間ではあるが前者の方が確実であると思われる。
意を決して玄関フロアから共有部へ向かおうとしたその時、何やら人影がこちらへ向かって歩いてきた。ううむ、アパートの住人であろうか? そうであるならせっかくなので背乗り進入を試してみるまでのことである。
迷い猫のフリをしながらそのまま自動ドアの前へと移動し観察を開始する。しばらくすると、スーツ姿に蝦蟇蛙がカツラを被ったような出で立ちの中年男性が、のっしのっしと歩きながら操作パネルの前までやって来た。
そのままロックを解除して中へ入るのかと思いきや、おもむろに部屋番号を指定して呼び鈴を鳴らし始めた。おや、ひょっとしてアパートの住人さんではなかったか、セールスの勧誘であろうかのう。
しばらく間があって、呼び出し先の住人さんから応答があった。
『ハーイ……、どちら様ですか?』
「コンバンワー。世界和平覚醒協会っちゅうモンなんやけど」
『せかい? はぁ……』
「カルト宗教の無い平和な世界を広めるために一緒に覚醒しまへんか?」     スーハー
『あいにくですけど結構でございますわ。って言うか、入り口に宗教勧誘お断りの貼紙があるはずですけど。ニホンゴが分からない異国の方ですか?』

ブツリ!?

速攻で撃沈されたようであるな、諦めてさっさとお帰り願おうか。
そのまま踵を返して帰るかと思いきや、なぜか入り口の自動ドアの前までやって来てしゃがみ込む。一体全体何をする気であろうか。
「なんや、野良猫かぁ!」
自動ドアの前にいる吾輩を邪魔臭そうに手で払いのけると、アタッシュケースの中から大きめの封筒を取り出した。そしてそのまま自動ドアの下部の隙間へと突っ込み始めたではないか、まさかコヤツ――。
差し込んだ封筒を左右に何度か揺らしていると、内側のセンサーが反応し自動ドアが開き始めてしまった。
中年男性はそのまま何食わぬ顔でアパートの中へと入って行く。一部始終を見ていた吾輩はまだしも、この威風堂々とした姿を見て怪しむ住人は居ないであろうなぁ。世界平和の名の下に、犯罪まがいの詐欺行為をくり返すカルト教団みたひだ。
おっと、こうしてはおれぬ。不幸中の幸いか、とりあえず自動ドアが開いたのは事実なので、この隙に吾輩も中へと入ることにする。
中に入るとすぐ左手に植木鉢があるので、ひとまずはここへ身を隠して成り済まし野郎が行き過ぎるのを待つことにいたそう。
探偵の心持で息を潜め、成り行きを見守る。おぞましいヒトモドキであるな、二度と寄り付かないように呪いをかけておくことにしよう、バナナの皮で滑って転ばぬようせいぜい気を付けるが良いぞ。
中年男性がエレベータの中へと消えて、周囲に誰も居なくなったのを確認してから階段を使って自室へと向かう。う~む、しばらく留守にしておる間に妙な輩が出入りするようになったようであるな、念のために結界も張っておくことにしよう。やれやれ、ここに来て急に忙しくなって来たでござるな、集会に遅れるわけにはいかないので手早く仕込みを済ませてしまわねば。
必要な手続きを済ませた上で、吾輩は再び自宅アパートを出てネコネコ団の集会場所へと向かう。
いろいろ手間取っているうちにすっかり夜が更けてしまったな。名も無き主の家を出た時にはどうやって余った時間を潰そうか思案していたものであるが、もはや時間ギリギリになってしまった。遅れを取り戻すべく吾輩は小走りに真の目的地へと向かう。
NOIRの前まで来たところでちょいと様子を確認。ふむ、いつも通りのようであるな、ただし、干し柿は撤去されてしまったようだ。
前回と同じく、吾輩はお店の横の細い脇道を通って裏手の空き地へと向かうことにした。わざわざこんな狭苦しい場所を通らなくても、ちょいと遠回りをして路地を歩いて行けばすんなりとたどり着けたりもするのであるが、あえて苦難の道程を選んでしまうのは偏に猫として生きると決めた者の運命なのであろう。
お店の壁と塀に挟まれた隙間を抜けて勝手口まで来る。空き地へと入る前に、ちょいと崩れた塀の影から様子を見てみることにしよう。
一番乗りは誰かにゃあ。顔を半分のぞかせて広場を見渡してみると、一匹の猫の姿があった。お隣に住んでいるローザちゃんだ。
しかしながらちょいと様子が変である。吾輩の方へお尻を向てなにやらモゾモゾと運動をしているように見える。うん? アレを運動と呼んで良いのかは別として、とにかく風変わりな動きだ。右の前肢と左の後肢を同時に上げたかと思ったら、今度は左の前肢と右の後肢を同時に振り上げる。同じ要領で頭を上に上げたら尻尾は下へと言った具合に、ちぐはぐな動作をひたすら繰り返しているのだ。
こいつはちと困ったことになったのう、何か見てはいけないモノを見てしまったような気がしてならない。吾輩には何を意味する運動なのかサッパリ分からないのであるが、本人は大の得意になって続けておられる。自撮りして例の動画サイトにアップロードするつもりなのであおうか? 何だか水を差すようで気が引けて出るに出られなくなってしまった。
このまま静かに見守りながら他のメンバーが来て止めさせるのを待った方が良いかもしれぬ。
満月の光を浴びながら人知れず運動を続けるローザちゃん。早く誰か来てこの奇行を止めてほしいものであるが、こういう時に限って待ち人はなかなか来ないものである。
一人さびしく見守っていたところ、ふとした拍子に方向転換したローザちゃんとバッタリ目が合ってしまった。
「あら、ドクちゃん。ごきげんよう」
「え、あ。やぁやぁローザちゃん、今宵も良いお月様でござるな」
こっそり塀の影から見守っていたつもりであったが、気が付いたらいつの間にか半身ほど身を乗り出して空き地へと入り込んでいるではないか。おやおや、恐ろしいおびき寄せ運動であるな。
「今日も遠路はるばるお早い到着ですわね」
顔だけはこちらに向けつつも、あくまで謎の運動は続けるつもりらしい。足と尻尾はピョコピョコ動き続けている。
「いやぁ、ローザちゃんの美貌をこの眼に焼き付けるために押っ取り刀でたった今駆け付けたところでござるよ」
「あらまぁ、お上手ですこと。ホホホホ」
「ところで、さっきから何をやっているでござるかな」
「あら、ご存知ありませんの。本場英国仕込のブリテンダンスの舞ですことよ。オ~ホッホッホ」
「ダ、ダンス? はぁ。ただの変態踊りにしか見えないでござるが」
「あら、失礼ですわね。本場英国においては、これが最も格調高き様式として賞賛されてますことよ。ホホホホ」
「はぁ、さようでござるか」
吾輩はいろいろと突っ込みたい事があることにはあったのであるが、本人がここまでその気になっているのであれば、下手な押し問答をするのは無粋と言うものである。ここは何も言わずに引き下がることにした。
「ドクちゃんもお一ついかがかしら?」
「いゃいゃ、遠慮させてもらうでござるよ。今日は朝から何も食べておらぬ身でお腹ペコペコなのでござる」
「あらまぁ、お気の毒ですこと。もうすぐ御馳走が出て来るでしょうから、それまでの辛抱ですわね。ホ~ホッホ」
言い終えると、再び頭を謎の変態運動に合流させてダンスとやらを続け始める。
「やぁやぁ、お二人さん。今宵も仲睦まじいことですなぁ(笑)」
路地の方からいつもの二人がやって来る。ポルポト君と独仙君であるが、何と、独仙君の方はポルポト君に背負われての登場である。大丈夫なのであろうか、いよいよお陀仏寸前であるな。
ポルポト君の方は今日も上機嫌のようだ。何か企んでいるような薄笑いはいつものことであるが、今日はいつにも増して口元が釣り上がっておられる。カメラでも持って来ればよかったと言わんばかりのこの表情は、彼も覗き見していたに相違ない。
そしてローザちゃんは、何故かは分からぬがポルポト君が現われると同時にパタリとダンスを止めてしまった。
独仙君を背負ったまま、のっしのっしと広場の中央へ来ると、ポルポト君、そのままドスンと独仙君を打ち捨てるように寝転がした。
「ふぅ、さすがにしんどいねぇ。君」
何処から背負い込んで来たのかは分からないが、わりと体格の良いポルポト君でもかなりお疲れの様相である。
「さすがに今日は意地でも何か口に放り込んでやった方が良さそうでござるな」
「そうすることにしよう、帰りまで背負うのは御免こうむりたいもんだ。オイ君、今日こそはつまみ程度でも何か食べて自分の足で帰ってくれたまえよ」
「……承知つかまつった」
ポルポト君がどかりと隣に座り込んで話しかけると、首から上だけを微かに動かして呟くように答えた。
吾輩が留守の間もまともに食べず酒に溺れていたのであろう。断食もここまで徹底していると天晴れと言わざるをえない。
「あれれ、みんな今日はお早い到着でヤンスな」
今度はレストランの方からアラン君がやって来る。
「そうかい? 定刻どおりのはずだと思ったがね。いやぁ、今日は重労働をこなして大分お腹も空いてしまったよ、晩餐の準備は出来ているかい」
「ええっと、それがでヤンスね。もう少々お待ちいただけると有難いでヤンス」
「なんだ、不手際だねぇアラン。しっかりしてくれないと困るよ、御馳走がお目当てで遊びに来ている団員も居るかもしれないんだからね。なぁ、満毒斎君」
「な、なんで吾輩に振るんでござるかw」
「アタイも今日はダンスの練習をしたあとでお腹ペコペコですわ」
あくまでもダンスであると言い張るつもりらしい。
「我々の胃袋を救えるのは君しかいないんだ、もっと自覚を持ってくれたまえよ」
「へ、へぇ。面目の次第もございやせん」

じゃら~ん

じゃららら~ん♪

どこからともなく鈴の音が聞こえ始めた。秋の月夜に見事に調和した優美な音色である。
「おや、今日は全員そろって晩餐会を始められそうだねぇ」
ポルポト君の視線を追って振り返ってみると、その先には一匹の猫影の姿がある。じゃらんじゃらんと首に付けた鈴の音を打ち鳴らしながら、ゆっくりとコチラへ向かってくる。

じゃら~ん

じゃららら~ん♪

広場へたどり着いたところで、ちょいと歩調をゆるめ、艶かしいキャットウォークを披露しながらさらにゆっくりと団員達の待つ広場中央へにじり寄って来る。まるで腹が減って気が立っている団員を挑発するかのごとしである。

ジャラ~ン♪

「今日はまた威風堂々とした登場でござるな、ニャンドレック君」
「そりゃそうさ、彼こそはネコネコ団にとって無くてはならない存在なんだからね。ハッハッハ」
「俺がチブリをここまで大きくしてやったんやでぇ(笑)」
「いきなりネタを振られても反応出来ないでござるよ……」
「一体全体誰のセリフでヤンスかね?」
「おととい偶然仕入れた魂のシャウトってやつやな。どや、当ててみぃ」
「おやおや、晩餐会の前に禅問答が始まってしまったみたいだね。ハッハッハ」
存外みな真剣に考え込んでいるようで、沈黙したまま頭をウンウン唸らせている。
「ちなみに思考パターンは13桁までY談やで」
「間違いなく変態の領域ですわね。ホホホホ」
「僕には到達出来ない領域だ!」
「こいつはなかなか高度な思索命題だよ君達。見事に解き明かすことができれば名探偵レヴェルの思索者だね、家に帰ってじっくり瞑想しながら考えてみたまえ。ハッハッハ」
「パヤオ先生より目立ちたがり屋って言えば一人しか居ないでヤンスよ」
「オーイ、アラン。御飯の準備ができたぞぉー」
お店の勝手口から例の店長が現われ、半身を覗かせながらアラン君を呼び込む。
「おう、猫ちゃん達も揃っているな。今日はスペシャルディナーを食らわしてやるからなぁ、もちっと辛抱してろよ」
「食らわせるって……」
「今日はやけに口撃的ですわね。ホホホホ」
「ひょっとして毒饅頭でも出てくるのかねぇww。おい、アラン。とっとと行ってディナーの催促をして来てくれたまえ、皆お腹が空いて気が立って来そうだよ」
「そうそう、小難しい禅問答は後回しにしてまずは腹ごしらえがしたいでござる」
「…………」
名推理を披露したアラン君であるが、何か言いたそうな目で一瞥を投げると、そのままトボトボとレストランの中へと戻って行った。
「やれやれ、御馳走にありつくまでにはまだしばらく待たされそうだね。ハッハッハッハ」
「なに、その程度の待ち時間など妄想の世界に溶け込んでいればすぐでござるよ」

クゥキュルルゥ~♪

吾輩の心の内を読み取ったかのように、ついに胃袋が呻き声を上げ始めてしまった。
「腹の虫は正直やなぁwwwwww」
じゃらんじゃらんと鈴の音を打ち鳴らしながらニャンドレック君がおどけて見せる。確かに、腹の虫とはよく言ったものである。
「それにしても、風変わりな鈴ですわねぇ。ホホホホ」
「ご主人様に付けてもらったでござるか?」
「あぁ、コレか。ここへ来る途中に雑魚がイチャモン付けてきたけぇ、ふん潰してぶんどって来たんや。ええやろ」
「ジャイアンみたいな奴でござるなぁ」
「彼の思考パターンは我々とは全く違う異次元世界だからね。ハッハッハ」

じゃららら~ん♪

クゥキュルルゥ~♪

「いい勝負ですわね。ホホホホ」
「……この程度の含み損で平常心を乱すとは、、修行が……足りぬのじゃ」
「「「!???」」」
独仙君が消え入りそうな声で何事かを呟き始めた。
「何やら異世界と交信を始めたみたいでござるが。大丈夫かい独仙君」
「いよいよフォースの冥界へ旅立ちそうですわね。ホホホホ」
「……ピンチは、、チャンス。……ココが、、底じゃぁぁ……」
「オイ君。あまり無茶をふるもんじゃないよ。おとなしく食事が出てくるまで死んだフリでもしていたまえ」
ポルポト君が嗜めると、プツリと糸の切れた人形のように動かなくなり交信も途絶えてしまった。一体全体どこの世界に迷い込んでいるのかは分からぬが、生きて帰ってこいよ……。

カン!カカン!

ようやく腹の虫も収まって静かになったと思いきや、また路地の方から新たな音色が聞こえて来る。この音は――。
「おやおや、今日はまたお早目の襲撃のようだね」
「きっとジャンボー軍団ですわね」

カン!カン!カカン!

徐々に拍子木の音が大きくなり近づいて来る。
「よし、みなの衆。いつもの場所へ撤収だ」
「「「アイアイサー!」」」

じゃあらららぁあ~ん♪

「……五月蝿い鈴ですわね」
「ニャンドレック君。鈴は捨て置きたまえw」
「うん? せやな」     ポイッ
皆で小走りに広場の隅の方へ移動を始める。独仙君は動く気配がまったくないので、ポルポト君が首根っこを咥えてズルズルと引きずって行く。
さぁて、今宵はどんな浪花節を聞かせてくれるのであろうか。こゝろを静かに、耳を澄まして聞き入ることにいたそう。

カン!カカン!
「火の~よ~じん」
覚醒教会デ~ス♪」
「マッチ一本~」
幸運の壺で運気もUPP!」
「火事のもと~」
ルミ子さんのポロリもあるよ~」

カン!カカン!
「火の~」
カルト宗教の無い平和なセカイヲ!」
「マッチ……」
誠実謙虚な覚醒協会を広めマショ~」
「火事――」
「カクセイ出版、『真実の証言集』もヨロシクで~す」

カン!カン!カカン!

何やら宣伝だけは矢釜しい謎の集団が拍子木を打ち鳴らしながら練り歩いて行く。もはやチンドン屋の様相であるがジャンボー軍団の亜種であろうか、とりあえず謎の軍団が行き過ぎるまで黙然とやり過ごすことにした。
今宵も謎の集団は拍子木を打ち鳴らしながら月夜の中を練り歩いてゆく。世界を平和へと導く信徒を増やすべく、夢の中へと堕ちた住人たちの目を覚まさせるように雄叫びを上げる。
「……何だいありゃあw」
「ジャンボー軍団ではなさそうですわねぇ」
「ルミ子さんって誰やねん」     [ヨーシュッテン]
みな目を点にして見合わせていると、ポルポト君が思い出したように呟いた。
「あれは、イニシエティの連中だろうね」
「「「イニシエティ?」」」
「うむ、表向きは創価の残党狩りを流布している新興勢力さ」
「あらあら、どこかで聞いたような設定ですわね(笑)」
「ふーん、犬作がボケて使い物にならなくなったから信者の付け替えでもやる気でござるか」
「ま、大方そんなところだろうよ。生暖か~い目で見守りながら観察しようじゃないかね。ハッハッハ」
「ただの火事場泥棒じゃありませんこと。ホホホホ」
「卑しい連中やなぁ」
「あー言うゴミが沸いてくるから原作出したく無いんだよなぁ」
「なに、あれだけヒントを出して気が付かないならただの莫迦なんだろうよ、捨て置きたまえ。ハッハッハ」
「みんなー、お待たせしたでヤンスよー」
レストランの方からアラン君が小走りで帰ってきた。どうやら晩餐の準備が出来たようであるな。
「あら、アランちゃんお帰りなさいまし。今日はどんなご馳走を食べて来たのかしら」
「え、やだなぁ、ただの残り物でヤンスよ。ヘヘッ」
舌をペロペロとブーメランのように振り回して誤魔化そうとはしているが、腹が減っている団員の前ではまったくの無益であると言っておこう。デミグラスソースの臭いが辺り一面にプンプンと漂ってくる。
「ところで、そんな隅っこにかたまって何をやってるんでヤンスか?」
「いやぁ、なに。ちょっとした緊急ミーティングってやつだよ。ハッハッハ」
なぜかは分からぬが、ポルポト君が惚けてみせる。
「き、緊急ミーティング!」
これまたアラン君もひっくり返りそうな勢いでたいそう驚いたような表情だ。
「EUの調停者を除け者にしてミーティングなんて非道いでヤンスなぁ」
「「「EUの調停者!?」」」
「どこの異世界の話だいソレは。不法移民は守るけどフランス人は守らないおサルさんのことかな?」
自称カイロ大学首席卒業の方かもしれませんわ。ウッフン♪」
「またまたぁ。みんなイジワルでヤンスなぁ。チラッ チラッ」
「さぁて、嵐も過ぎ去ったことだし、妄想座談会でも始めることにしようか(笑)」
「…………」
ポルポト君の掛け声を合図に全員のっしのっしと広場の中央へと戻ってゆく。丁度レストランの勝手口からも、例の猫好きコックさんが銀色のお盆を携えてこちらへと向かって来る。
今度こそは晩餐会の始まりだ。
「今日はスペシャルメニューと言うことでしたわね、どんなお料理が出てくるのか楽しみですわ。ホ~ホッホッホ」
「たっぷりと堪能させてもらうでござるよ」
「あ、あのう。それがでヤンスね、今日はちいっとばかし下衆なモノを召し上がって頂かないといけなくなったでヤンス」
「「「下衆な物!?」」」
「おいおい、アランく~ん。君には失望してしまったよ、これだけみんなを待たせておいてガッカリだねぇ。しっかりしてくれたまえ」
「へ、へぇ。面目の次第もございやせん……」
はて、アラン君の言い分によると、今日のメニューはちょっと残念な結果になりそうな感じであるが、そうなると例のコックさんが言っていたスペシャルメニューとやらは嘘であったのだろうか。何やらよく分からなくなってきたにゃあ。吾輩も今日はお腹が空いているので、あれやこれやと深く詮索するのはやめにして、とりあえずどんな料理が出てくるのかを黙って見届けることにした。
「よう、猫ちゃん達よ。今日は待たせちまって悪かったなぁ」
広場の中央へ陣取り、団員達が物欲しそうに見上げるなかで演説が始まる。
「今日はいつもと違う料理を作ってみたぜ、お猫様専用の特別メニューだ。ついでに今年出来たてのボジョレーも付けといてやったからな、今宵も改心の出来ばえだ、公明学会も間もなく崩壊しちまうだろうなw」
はて、前回も似たような台詞を聞いたような気がしないでもないが気のせいかしらん。
演説が終わると同時に、丸い銀色のお盆がゆっくりと団員達の輪の中へと降りてくる。
皆の期待を一身に受けたその中身は。
「「「こ、これは」」」
「ジャジャ~ン。NOIR特性お猫様用ハンバーガー、その名も『Most of mostバーガー』でヤンス」
「なるほど、西洋の野蛮人種が好んで食べると言われている下衆の極みな食べ物だね。ハッハッハ」
「お猫様用と言いながら、猫のことなどこれっポッチも考えていない形状ですわね。ホホホホ」
ふむ、さんざんな言われようであるな。
確かに、猫用とは言いながらも見た目は普通のハンバーガーと何ら変わりはない。大きさも人間用と大差なく、せいぜい一回りほど小さいくらいだ。それが人数分たんと置いてある。となれば、猫が食べられない食材は使用せずに、味付けも猫用になっているものであると期待を込めて予測するしかない次第である。
みな不安そうな表情でお盆の上に乗ったハンバーガーを見つめている、取っ掛かりが欲しいといった感じだ。
「あ、味は保証するでヤンスから安心して食べるでヤンスよ。ささ」
「しかし、食べるったって。一体全体どうやって食べたら良いのかね。ハッハッハッハ」
「高度に育成訓練されたプロフェッショナルが必要ですわね。ホ~ホッホッホ」
「なーに、猫又流に好き勝手に食べてもらって結構でヤンスよ。人間のマネをしてかぶり付く必要なんてないでヤンス」
「そうかい。それじゃ遠慮なく」
カツラが上に乗っかっているだけのような薄っぺら~いパンズを前肢でペシリと払いのけてみる。
大きいピクルスが添えられたハンバーガーパティが表れるが、塩辛いタレや具材は挟み込まれていないようだ。オーソドックスにパティをパンズで挟んだだけのシンプルな構成である。
「ふむ、独仙君。このピクルスはなかなか美味そうな予感がするよ、食べてみたまえ」
ピクルスを丁寧に剥ぎ取り、お盆の端に置いてみる。
這うようににじり寄って来た独仙君、ようやく口に運び入れてモソモソ咀嚼を始めた。
それでは、吾輩はハンバーグパティの方をいただくことにしようかのう。とりあえず一口パク付いてみせる、……これは。
噛みこんだ瞬間にほと走る濃厚な肉汁と香りのハーモニー。上質でありながらも嫌味の無い気品あふれる味わいだ。一口食べ終わるとまたすぐに次の一口が食べたくなって来る。無意識のうちにお口がかぶり付き始めてしまう芸術的な一品だ。
「お、なかなか粋な食べっぷりだねぇ、満毒斎君。ハッハッハ」
「さすが、プロ中のプロでヤンスなw」
「どれどれ、我々も一緒に頂くことにしようじゃないか」
ポルポト君の一言と共に、ほかのメンバーもパティに食いついて来た。
一応は一猫一個ずつ用意してあるのだが、各個撃破でやっつける作戦らしい。
皆でかぶり付いていると、またたく間に一個目のハンバーグパティは無くなってしまった。
「なるほど、期待通りの味だね。これならいくらでもイケそうでござるよ」
「どうだ、美味いだろう。今日もタップリと楽しんでっておくれよ。ガーハッハッハ」
猫達の食べっぷりを見て満足したのであろう。謎のコックさんは踵を返し、のっしのっしとレストランの中へ戻っていった。
ではでは、二個目に取り掛かろうと思ったのであるが、相変わらずピクルスを一人でチマチマとやっている独仙君に気が付いた。
「独仙君。君もお一つ食べてみたらどうだい、こっちの肉汁が染み込んだパンズなら君の胃袋にはおあつらえ向きだろう」
残ったパンズを独仙君の方へと差し出す。しばらく犬のようにクンクン臭いを嗅いでいたものの、意を決して食べ始めてくれた。よしよし。
「それでは次に行くでござるよ」
二個目のハンバーガーのパンズをまたペシリと払いのけ、皆でハンバーグパティへとかぶり付く。
お腹が空いているせいであろう、同じ要領でまたたく間に三個目までたいらげてしまった。
「いやいや、確かにこれは病み付きになってしまうね。ハッハッハ」
「でも、これだとパンズが大量に余ってしまうでござるなぁ」
「なーに、余り物はお隣のポチに処分させちまうんで心配は無用でヤンスよ」
「我々は美味しいところだけを摘み食いすれば良いと言う算段だね。ガーハッハッハ」
「全て予定調和と言うことですわ。オ~ホッホッホ」
とりあえず、一通りお腹も満足したところで団欒の雰囲気になって来た。
「さてと、久しぶりに全員そろって晩餐会を開けたわけだが、どうだい、みんな息災にしていたかな。近況を報告してもらおうか」
「とりあえずは元気ですけど、今年は自然災害が多いですわね。変な台風ばっかり来ちゃうからアテクシのオンボロ教会が倒壊寸前ですわ」
ローザちゃんが少々困り果てたような表情で愚痴をこぼす。ふと教会の方を見てみると、なるほど、屋根の一部にブルーシートが被せてあるのが見えた。
「そいつは御気の毒様だったね。卑しいヒトモドキが増えてしまったから台風も欲を出して来たんじゃないかな。ハッハッハッハ」
「今年は逆走ゴッコも覚えたでござるしなw」
「人からサルに退化したからかもしれへんで」
「来年はもっと非道いことになりそうですわね……」
「神も仏も無いでヤンスなぁ」
覚醒バヴァのお望みどおり出て行ったんじゃないかな。ハッハッハ」     バイバーイ
「あらあら、困った時だけ神頼みはもう使えませんわね。ホホホホ」
「神様が居なくなったらどうなるでヤンスかね?」
「そうさね、エロ目漱石先生の予言によると、修羅の国になるんじゃないかな。ハハ」
「不人情の世界でヤンス……」
「「不人情ではない。自業自得と言うのだ」」
「来年はさらなる覚悟が必要になりそうだね。ハッハッハッハ」
「アラン君の方はどうでござるか。レストランは無事でござったかな」
「ウチは大丈夫でヤンスよ、サルト教会が盾になってるでヤンスからww」
「サルト教会が崩壊したら一連托生でござるな」
「何とか耐えられるようにお祈りしておきますわ。ホホホ」
「晩餐会が出来なくなってしまうのは困るからね、是非とも頑張ってくれたまえよ。ハッハッハ」
「異世界パリの方は大変なことになっているようでござるな……」
「大変どころじゃないでヤンスよ、大炎上中でヤンスよ。一体全体どうしてこんなことになっちまったでヤンスかねぇ」
「君の父上がイケナーイのでござるよ」     ボーヤダカラサ
「あらまぁ、確かに大変そうですわね。どう言った人物なんですの?」
「何やらEUでの改革に定評のある人物らしくてね、EUの調停者と呼ばれているらしいよ。癖というか個性的なのは、地方の労働者階級は切り捨てて増税一本で改革を推し進めて行くそうだ」
「それじゃあ何処かの国のボンボン首相と同じじゃありませんこと、愚弄張るチンピラと変わりませんわね。ホホホホ」
「それがEUの調停者たる所以さ。右派でも左派でもない、ただの世間知らずみたいだよ。ハッハッハ」
「右派でも左派でもないってそう言うことだったんですわね」
「世間から浮いてるんでござるよw」
「猿真似して成り済ます習性が仇になっているわけでヤンスな」
「調停者なんて気取ってる放逸な態度を見ていれば分かるでござろう、彼はフランスを良い国にするために大統領になったわけではなさそうでござるよ」
「水が無ければводкаを飲めば良いんですわ。ホ~ホッホッホ」
「とんでもない奴を大統領にしちゃったんやな。異世界フランスは」
「これはもう革命を起こすしかないんじゃないかね。ハッハッハ」
「さっさとケケ中を引きずり出してギロチン台に上げろや、A級戦犯やろ」
「歴史は繰り返すんでヤンスな……」
団員達の談話をよそに、肉汁の染み込んだ余り物パンズを食べていた独仙君。いつの間にか食べ終わったようで、お次は今年取れたてのボジョレーをしたためている。獣のように両の目をギラギラと輝かせて、一心不乱にワインの注がれた小鉢をナメ回しておられる。ついに美食の道へと目覚めたようであるな。
「独仙君。今年のボジョレーの味はどうだい、お気に召したかな」
「……うむ、美味ナリ」
「美味しいのは分かったが君、瞬きをするのを忘れておりはせんかね。ハッハッハ」
「ついに開眼したでヤンスww」
「正直言ってキモイですわ(笑)」
「最近はすっかり忘れ去られて空気になっていたからね。ここらで一つポエムでも詠んでみたらどうだい。ハッハッハ」
言われてさっそく一句思い付いたのであろうか、ツイッと頭を持ち上げて団員達の方へ向き直る。
「……この国も奇劇ばかりが起こるようになったようだ」
「ふむふむ、なかなか面白いが君、ポエムとしてはイマイチだねぇ。なんと言うか基本がなっていないように思えるよ。おい、満毒斎君。ちょっと教えてあげたまえ。ハッハッハ」
「は? 何で吾輩に振るんでござるかw」
「いやぁ、なに。小生の専門は無限関数なもんでね、そっちの方は満毒斎君が詳しいんじゃないかと思ってね。ハハ」
(本当かよ。相変わらず胡散臭いにゃあ)
「ま、よかろう。そもそもポエムと言うものはだね、天に奉げる唄なのだよ、西洋なら神様でもかまわんがね。したがって大衆を欣悦させるために書いた散文などをポエムと呼んではイカンのだ」
「……ふむ、一理あるな。精進することにいたそう」
「なるほどねぇ。ところで、そう言う満毒斎君の方はどうなんだい。エロ神様に奉げるポエムとやらは順調に進んでいるのかね」
「うむ、ボチボチと言ったところでござるな。ここまで来たら宇宙一エロく仕上げて見せるでござるよ」
「相変わらずの邪教っぷりですわね。ホホホホ」
「エ・ロースに国境は無いからね」     キリリッ
「こいつは楽しみだ、無事にポエム集が出たら拝見させてもらうことにしようかね。ハッハッハ」
「でも今は出版業界も大変みたいでヤンスからなぁ」
「異世界転生モノもそろそろオワコン化しとるしなぁ」
「そうなんでござるか……」
「老舗の雑誌もバッタバッタと休刊になっとるで」
「この前は真潮48が逝ってしまったみたいでヤンスよ」
「真潮48って何ですの?」
「知らないのかね、二枚舌構造の自称保守系雑誌だよ。上から目線でLGBTの批判をしていたら大炎上してしまってね、休刊に追い込まれてしまったみたいだよ」
「自業自得と言うやつでヤンスな」
「うむ、まさかケンタイ新聞より先に逝ってしまうとはね、いやはや、世の中分からないものだねぇ。ハッハッハッハ」
「そりゃあウンコ製造器ごときに生産性が無いとか言われたら吾輩でもキレるぞなもし」
「毒やん。食事中に何言うとるんや」
「まったくだね。何で君は食事時になるとウンクォの話を始めるんだい?」
「ちょ、ちょっとお、ローザちゃんの視線に殺気が込もってるでヤンスよ!」
「あらぁ、ドクちゃぁあん。今度あたいの家に招待してあげるからおいでなさいな」
「マユケナシ神の鱗みたいな肌に誓ってお断りしたいでござる」     ガクブル
「代わりに神様へお祈りを奉げるでござるよ」

「…………」

「許されたでござる♪」
「本当かね君。ハッハッハッハ」
「なんともチャラい神様やなぁw」
「それで、LGBTに生産性が無いってどう言う意味でヤンスかね」
「銭勘定しか頭に無い卑しいおサルさんやからな。奴隷を再生産しない連中には価値が無いんやろなぁ、アイツらは」
「人とモノの区別も付かないんでござろうな」
「人権侵害も甚だしいですわね。ホホホ」
「貧しい価値観でヤンスな」
「まったくだ。君たちもLGBTが作ったハンバーガーを食べてちゃんと幸せを感じているじゃないかね、それだけでも十分に価値があると思えるがね。ハッハッハ」
「え、LGBT??」
「知らなかったでヤンスか?」
「猫をこよなく愛するゲイコックですわよ、ピエールちゃんは」
ふむ、なるほどねぇ。海兵のような厳つい体躯に似合わぬ繊細な味付けと盛り合わせの妙技、今日はまた一つ新たな謎を解き明かすことができたでござるな。
オウムバヴァなんぞよりよっぽどお猫様の役に立っているってもんじゃないかね。ガーハッハッハ」
ポルポト君がこちらに向かって唾を飛ばしながら声高らかに大口で笑い出す。コノやろう、きちゃないにゃあ。まったくもって。
「さぁて、異世界の辛気臭い話はこれくらいにしておいて、もっと楽しく飲んで歌って踊ろうじゃないかね。どれ満毒斉君、音頭を取ってくれたまえ」
「ヘイヘイ。それじゃあ全員起立でござるよ」
当たり前のように吾輩を指名してくるポルポト君であるが、まあ気にしないことにして。ネコネコ団のさらなる躍進を願って一つ舞を披露することにいたそうか。
「それじゃ行くでござるよ~。ババンバヴァンバンバン♪」
腰と前肢をリズミカルに振りながら音頭を取ってみせる。見よう見真似で他の団員達も同じように踊りだす。それほど難しい振り付けではないので、すぐに要領を覚えて合わせられるようになった。

「「「ババンバヴァンバンバン~」」」
「ちゃんと歯ぁ磨いたか?」
「「「バヴァはBAN BAN BAN~」」」
「お題目も唱えたか?」

「「「ババンバヴァンバンバン~」」」
「幸運の壺も買ったか?」
「「「バヴァはBAN BAN BAN~」」」
「ちゃんと覚醒しろよ!」

銀色のお盆を取り囲み、ぐるりと円を描くように全員で踊りだす。
今宵はまた一段と美しいお月様が天高く見守っている。
無口な夜の女王だけが我々の舞を静かに見守っているようだ。

「時間だーよ!」
「「「仕方がーない」」」
「次の回までー」
「「「ごーきーげーんーよ♪」」」     ハァビバノンノ

ババンバヴァンバンバン~……



暗闇の中で静かに目蓋を開く。
うむむ、いつの間にか寝てしまったようであるな。まぁ、あれだけ飲んで食べて踊っていれば酔いが回って寝てしまうのも当然であろうか。
辺りを見回してみると、他のメンバーも騒ぎ疲れてしまったようで、ぐっすりと夢の世界へと旅立ったようだ。と思いきや、なぜか独仙君の姿だけが見当たらないようであるな、先に一人で帰ってしまったのであろうか。そしてさらに気になることが一つ。
銀色のお盆に残っていたはずのハンバーガーがゴッソリと消えて無くなっている。吾輩が記憶している限りでは、食べ残しのパンズだけがドッサリと余っていたはずなのであるが……。さては彼の仕業なのであろうか、それにしてもすさまじい大食漢であるな、六個分のパンズを一匹ですべて平らげてしまったと言うのか。何か知ってはいけないような恐ろしい片鱗を垣間見てしまったような気がする。
宴が終わった空き地はシンと静まり返っている。お月様もだいぶ傾いてすっかり夜も更けてしまったようであるな、吾輩もそろそろお暇させてもらうことにいたそう。
深い眠りへと落ちて行った団員達を起こさぬよう、そっと空き地を後にする。とは言っても、とっくの昔に終電は出てしまっているだろうし――さて、どうするかな。
人通りの無い路地をてくてく歩きながら思案する。
今日はちと飲みすぎたかのう、明日は二日酔いになりそうな気配である。
「う~む、やっぱりオタクはダメでござるな」
吾輩の思考回路が一つの決定を下した。
吾輩は新しい主を求めて流浪の旅に出る。今度こそは理想の主とめぐり会えるまでしばらくの間この街を探索してやろうと思う。
夜風がだいぶ冷えてきた、木枯らしが吹き始める頃までには新しい主の元へとたどり着きたいものであるな。
雑居ビル群の陰に隠れ始めたお月様を追うように、吾輩は歩き続ける――。

第二部 完。

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